はじめに
こんにちは、つるかめ相続税理士事務所の平岡です。
税務署から税務調査で「名義預金」と認定された場合には、相続人は税務調査対応、遺産分割協議、追加で相続税を納めるなど、その労力と経済的負担は大きいものになります。
(※ 名義預金については、記事「【相続税調査】国税OB税理士が名義預金について徹底解説!!」を参考にしてください。)
税務署は、たくさんの資料を保有していますので、その中から名義預金が疑われるお宅は目をつけています。
つまり、名義預金がありそうなお宅は調査に入られやすいともいえます。
そこで、今回は亡くなった後に、相続人であるご家族が名義預金で苦労しないために、日頃から心がけるべき5つのポイントについて解説したいと思います。
【この記事のポイント】
■その預金は誰のものかということを意識する(「おうちのお金」や「夫婦のお金」など曖昧にしない)
■子供などに財産を贈与する際には、贈与契約書を作成する
■子供にお金を贈与する場合には、子供が普段使いしている口座に入金する
■贈与があった際には、贈与税の申告と納付を必ず行う
■相続発生前に名義預金が発覚した場合には、先延ばしにすることなく、その預金の名義人に適切に贈与する
誰の財産(預金)かを意識する
基本的には、その個人が稼いだお金はその個人の財産となります。
例えば、夫が専業主婦の妻に毎月生活費を渡し、妻が生活費の余りのお金をへそくりとして妻名義の預金としていた場合、この預金は誰の財産となるでしょうか?
法律的には夫が稼いだお金がその妻名義の預金の原資となっているため、夫から妻への贈与がない限り、その妻名義の預金は夫の財産ということになります。(専業主婦も家事という労働をしているんだから私の財産だ!とお𠮟りを受けそうですが、とりあえずここは法律論としてお聞きください。)
したがって、仮に夫が亡くなった時には、この妻名義の預金は夫の相続財産ということになりますので、相続税の課税対象となります。
家族間、親族間ではなかなか難しいかもしれませんが、預金であれば誰のお金が預金されているか、預金以外のものであれば、誰のお金で購入されたものか、つまり誰の所有物かを意識することが重要となってきます。
これを例えば、「おうちのお金」や「夫婦のお金」というように、あいまいにしていた場合には、相続の際に家族間だけでなく、税務署とももめる原因になりますので注意が必要です。
財産を贈与する際には贈与契約書を作成する
相続税対策、結婚資金、留学費用など目的は様々あると思いますが、財産を妻や子供などにあげたいということがあるかと思います。
ここででは、コツコツと子供名義で貯めた預金を子供に贈与するということを想定します。
法律上、贈与があっというためには、贈与者の「この財産をあなたにあげます」という意思と受贈者の「この財産をあなたからもらいます」という意思の合致が必要となります。(これを「贈与契約」といいます。)
贈与契約は、特に書面にする必要はなく、口頭での口約束でも問題ありませんが、その場合、贈与があったという証拠が残らないため、場合によっては相続税調査などで税務署から贈与はなかったと認定され、名義預金と認定されてしまうこともあります。
自分が貯めた預金を子供にあげたいといったときに、わざわざ親子間で贈与契約書を作成される方は少ないと思います。
しかし、贈与の事実をあとから争うよりは断然簡単で時間もかかりませんので、面倒かもしれませんが贈与契約書は必ず作るようにしましょう。
ただし、贈与契約書があれば万能かというとそういうわけではなく、1つの防衛策にはなりますが、あくまでも実態として贈与があったといえるかが判断基準となってきますので注意してください。
子供にお金を贈与する際に新規口座は作らない
親から子供、祖父母から孫へお金を贈与する場面も多いかと思いますが、その際に、子供名義の専用口座を新規で作成せず、子供が普段使いしている普通預金に入金するようにしてください。
その預金が誰に帰属するかは、その口座の作成経緯や通帳や印鑑などの管理状況などにより判断されます。
たとえば、新規口座を作成し、その通帳や印鑑の管理を親がしていた場合には、税務署からは名義預金を疑われてしまいます。
また、それらを将来的に渡すつもりであったとしても、その前に亡くなってしまう可能性もあります。
そうすると、親子間では贈与は完了し、その預金は子供のものだと思っていたとしても、税務署的には今ある状況から子供に贈与したとはいえないとして、「名義預金」と認定されることもあります。
よって、贈与契約書によって、当事者間の贈与の認識を証明し、通帳や印鑑などの管理を通じて外形的にも贈与の事実を主張できるようにしておきましょう。
贈与税の申告と納付を忘れずに行う
贈与により、一定額以上の財産を取得した場合には、贈与税の課税対象となります。
毎年1月1日から12月31日までに贈与で取得した財産が110万円を超える場合には翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告と納付が必要となります。
例えば、相続税調査などで、贈与税の申告・納付まで済んでいるのに、税務署が贈与がなかったと認定するには、確固たる物証と事実を探さなければなりませんし、税務署側に立証する責任が生じます。税務署もそれは証明することは経験上、容易なことではないかと思います。
よって、贈与税の申告と納付をすることによって、贈与があったことを証明するひとつの主張材料になりますので、申告はしておきましょう。
相続発生前に名義預金が発覚した場合の対処法
相続発生前に名義預金が発覚した場合には、その預金の名義人に適切に贈与しましょう。
これを先延ばしにして、相続が発生してしまった場合には、もう名義預金を回復する術はないので、その預金は相続税の申告をすることになります。
そうなると、同時にまた別の問題も生じてきます。
例えば、おじいさんが孫の将来のために孫名義で預金口座を作成し、その預金残高が2,000万円あったとします。
その孫に孫名義の預金を贈与しないまま、おじいさんが亡くなり、その預金が「名義預金」と認定された場合には、おじいさんの相続財産となるため、遺産分割協議の対象となります。
遺産分割協議により、相続人で財産を分けることになりますので、原則として、孫は相続人とはならないため、遺産分割協議の内容次第では、その預金が孫にいかない可能性があります。
おじいさんは生前、孫のために・・と思って積み立てていても、孫の手に財産がいかず、そのおじいさんの想いが達成できない場合があるのです。
相続発生前に名義預金が発覚した場合には、先延ばしにすることなく、その預金の名義人に適切に贈与しましょう。
※ この記事は公開日現在の法令に基づいて作成されています。